特集 愛しの雲南号

愛しの雲南号 雲南を駆け抜けるバス

雲南号イラスト

 雲南省は山が多く、鉄道はあまり発達していないので、バスによる旅が一般的となります。

 山を越え、谷を下り、大河を渡って私たちを遠い辺境の地へと連れて行ってくれる有難い存在です。

 その中で最も乗る機会の多かったのが雲南製のバス、通称「雲南号」です。 雲南を旅した方なら、乗ったことがあるのではないのでしょうか。

 今回は1980年代の雲南を駆け抜けた「雲南号」と、バスの旅の魅力についてお話します。


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Part1: 雲南号の特徴

雲南号フロント

雲南を旅する者が必ず乗るバス

 丸みを帯びた小柄な車体に、ややヒップアップしたテール。丸目4灯のライト。 そしてラジエータグリル上のエンブレムには「YUNNAN」の文字が誇らし気についています。 性能も乗り心地も決して良くありませんが、その愛嬌のある姿を見ると、なぜか乗りたくなったものです。

 当時、このバスは雲南省のあらゆる所を走っていました。 東部地方の標高100メートル付近から、北部の4000メートル以上の峠まで運行されていたのだから驚きです。

 車内には狭いシートが並び、特に後部座席などでは膝を横に折り曲げないと座る事が出来ないほど窮屈でした。 3人掛けのシートは2.5人分の幅しかないので、通路側の人は常に半ケツの状態で座ることになります。 そこに身体の大きい人が乗ると悲惨な状況になりますが、どうしようもありません。 後に2人掛け×2列の車も増えましたが、3人掛けシートにあたると辛い旅路を覚悟しなくてはなりませんでした。

 座席数は45席ほどです。 サスペンションは当然板バネなので快適な乗り心地を期待するのは無理です。それどころか、後輪よりも後ろの席では悪路走行時に跳ね上がって、頭や顔を荷物棚にぶつけて怪我をする危険性がありました。 実際に怪我した乗客を何度も目撃しましたし、私自身も頭をぶつけたことがあります。

 余談ですが、サニ族の娘さん達はバスが空いていても、わざわざ最後列の席に座り、ジャンプする度に「キャッキャ」と笑って楽しんでいました。 私達は真似をしないのが懸命です。

長くて辛い旅

 このような厳しい環境で遠路に向かうわけですから、それなりの心構えが必要です。 長距離になると3泊4日のバスがありましたから、目的地に着いた時には疲労困憊になる危険性がありました。 昆明から2泊3日かけて西双版納に着いたけど、具合が悪くなって寝込んだという旅行者が結構いたものです。

少数民族の地でも活躍


 それでも大理や景洪に向かうメインルートは舗装された部分もあり、バスの本数が多いので新型に乗れる機会も多く、まだマシなほうです。 一方、僻地を走るバスはまず旧型ですし、道が舗装されていないため車体が汚れて凄まじい外見になっていました。

 しかし車体の汚れは「長距離を走破した風格」があるというか、ラリー車のような貫禄すらあって、さほど問題ではありません。 辛い旅を乗り越えて目的地に到着した時には、「一緒に頑張った朋友」のごとく愛着心が湧くほどです。 反対にどうしても納得できないのが「車内の汚れ」ですが、これについては後述します。

 長時間にわたる乗車の結果、たいていの旅行者はカーブの連続と雲南号の乗り心地の悪さに参ってしまうのでした。 これを避けるためにはゆったりと余裕を持った旅行計画が効果的で、10時間で着くところならば1泊2日、2日かかるところなら3日かけて移動すると、旅はずっと快適になりました。

 上の写真は89年に撮った勐混の日曜マーケットのものですが、たまたま雲南号が写っていました。 景洪から奥は全て未舗装だったので、リヤウインドウがホコリまみれですね。 この頃の西双版納は交通事情が悪く、景洪から勐混まで1泊2日もかかっていました。まだ雲南省がとても広かった時代です。 ちなみに現在(2009年)は高速道路が通っていて、約1時間で着いてしまいます。

雲南号テール

旅行者のバックパックは屋根の上へ

 雲南号は小振りで車内が狭いため、大きな荷物は屋根の上に載せることになりますが、全て自分の責任で荷が落ちないように縛らなくてはなりません。 走行中に屋根から荷物が落ちてしまい、大声で車を止めて荷を拾いに行く人もたまに見かけました。 夜だったらまず見つからないでしょう。市内以外は街灯など無いからです。

 そうしてしっかり縛った荷物ですが、他の乗客の荷物が重なったり、荷物を覆うシートが風で飛ばされて風雨にさらされたりして、必ず汚れてしまいます。 荷台には家畜から工業製品まで何でも載せますので、旅行者の荷物などは悲惨な状況になります。

屋根には何でも載せます

たいていは泥か油がついて汚れますが、中の物が壊れていなければよしとしなくてはならないでしょう。 つまり壊れそうな物は決して積んではいけません。これを知らないと大変な事になります。

 目的地に到着しても油断は禁物です。係の人がいれば荷を降ろしてもらえますが、屋根の上から投げ降ろすので気が抜けません。 バックパックを放り投げられて目が点になっている欧米人をよく見かけました。抗議しても全く無駄です。 速やかにバスの後部から自分で屋根に登り、荷解きをするべきでしょう。それは盗難防止にもつながります。

 雲南号の後部には、荷台に登るためのハシゴと、足をかける穴がついていますが、上り下りすると靴は泥で汚れ、服には何かの油がついたりして、 結局は荷物も人も汚れてしまいます。 こうして雲南を旅する者はだんだんと学び、荷物は少なく、服装は汚れてもいい格好となっていきます。

雲南号の運転席から

うるさいホーンと中国式省エネ走法

 雲南号に限らず、長距離バスにはクラクションの他に空気圧で鳴らすタイフォンが搭載されています。 走行中に他の車や歩いている人に向けられて鳴らされますが、これを「ファーッ」とやられるとかなりうるさいです。 運転手によっては、やたらとタイフォンを鳴らす人もいて、前の座席に座った時などはその音で頭が痛くなるほどです。

 クラクションは市街地をゆっくり走る場合に用いられているようですが、こちらは音が小さくてホーンの意味をなしていないようでした。 タイフォンを鳴らしながらもスピードは落としませんので、前側の席に座っていると「ぶつかるのではないか」と冷や冷やします。 鶏や犬などは平気で轢いてしまいますし、下り坂になるとニュートラルにしてエンジンを切ったまま走るので、車体が不安定になって大変怖い思いをします。

 中国の乗客は知ってか知らずか平気なようですが、我々の感覚ならば「崖に落ちるっ!」とか「対向車にぶつかるっ!」と恐怖におののくはずです。 まあ中国全土で「ニュートラル走法」を行なっているのでしょうから、かなりの燃料節約になるとは思いますが、 山の多い雲南では崖下に落ちたトラックやバスを何度も目にするので、これをやられると絶望的な気持ちになります。

 ちなみにガードレールはありません。メインルートには白いペンキを塗った木が植えてありますが、山間部の崖側には低いコンクリートブロックがある程度です。 それすら無い所も多いので、落下事故は絶えないようです。夜間の走行は街灯が無いのでもっと危険ですが、中国のバスドライバーは運転技術が高い人が多いので、 私は大怪我をするような事故に遭ったことはありません。「もうちょっとで・・・」ということは何度もありますが。

エンジン修理

故障は避けられない?

 非力なエンジンを酷使するため、雲南号はよく故障します。主に電気系が多いようです。 たいてい運転手は慣れた手つきで修理してしまいますが、たまにシリンダー部までいじっている事もあります。 その場合、数時間にわたって足留めされます。夜間の故障も同様です。 幹線道路の場合なら、私は故障の程度を運転手に聞き、長くかかりそうならばさっさと後続の(場合によっては逆方向の)バスに乗り換えるようにしています。

 困るのはローカル線での故障です。田舎ではバスは1日1本、あるいは2日に1本だったりするので動きが取れなくなるのです。 一度、バスがエンコして男の乗客全員で町まで押したことがあります。 下り坂になると急いで飛び乗ってニュートラルで走り、バスが止まるとまた押すの繰り返しでした。

 また、ラジエーターが漏るためか大量の水を必要とします。道端にも「加水」と書かれた看板をよく見かけます。 ほとんどの雲南号は運転席の後ろか屋根の上に給水タンクを装備していました。 休憩の時など、タンクのコックをひねって顔など洗う運転手がなぜかかっこよく見えたものです。 しかし割合によく見られたのが、川などの濁った水をジャバジャバ入れるドライバーです。あれは車に良くないですね。 まあ、中国のバスは3年もたったらボロボロになってしまうのが普通ですが。

ラジエータに水補給が必要な中国車

 これはバスではないのですが、雲南省の徳欽からチベットの塩井に向かったとき、ヒッチした北京型ジープが何度も故障しました。 その度に運転手が車をいじって直したのですが、夕暮れを過ぎたあたりで全く動かなくなってしまいました。ラジエーターの水が足りないようです。

 人気の無い場所ですし、あたりは真っ暗なので野宿になるところでしたが、崖下に瀾滄江が流れていたので、運転手と荷台に乗っていたカム族の男がやかんを持って水を汲みに下りていきました。 暗い崖を下りていくなんて、とても普通じゃ考えられません。

寧蒗から永勝へ向かう道

30分ぐらいかかって二人は戻ってきたのですが、両手にやかんを提げ、中国製の大きな懐中電灯を口にくわえて上がってきたカム族の男には驚きました。 凄い体力と精神力です。

 やかんの水を入れると車は無事に走り出しましたが、塩井に着いたのは夜中になってしまいました。 暗闇で何もわからないままチベット人の民家に泊めてもらいホッとしたのを憶えています。今では貴重な思い出です。

 雲南号は小柄とはいえ大型バスです。パワーステアリングなど無いですからハンドル操作には相当の力が要るはずです。 そのうえ九十九折の山道を走らなくてはならないわけですから、女性ドライバーは皆無です。 中国は男女平等ですから、昆明市内でも2連結バスを女性が運転していますが、雲南の長距離バスは男たちの世界です。

 Part2では、そんなドライバーが連れて行ってくれる魅力的なバス旅行についてお話します。

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